TSMCの倉庫にアップルのチップが10億ドル分眠っているわけではない
A recent media report claims that tight DRAM supply has left TSMC holding around US$1 billion worth of Apple 2nm processor work-in-process (WIP), described in the report as “processor wafers,” that cannot yet be packaged. As supporting evidence, it points to TSMC’s 2Q26 earnings…
TSMCがパッケージングできないアップルの2ナノ・プロセッサを10億ドル分抱えている、という報道が出た。 DRAMが足りず、次の工程に送れないでいるという話だ。
TSMCがアップルA20 Proを10億ドル分抱えているとの報道 (Wccftech, 2026-08-06)郭明錤はこの話が立っている前提そのものに異を唱えた。 アップルはTSMCへのプロセッサ生産を少なくとも3か月前に発注し、そのとき使えるメモリの量を見込んで数量を決める。 ならばメモリが詰まっているときに減るのは発注のほうで、TSMCが仕掛品を大量に積んで待つ理由はない、という理屈だ。
在庫日数という根拠
報道が根拠にしたのは、7月の決算説明会でのTSMCの発言だった。 在庫日数が増えた、その理由は2ナノの立ち上げだ、という部分である。 在庫日数とは、まだ売れずに抱えている在庫を1日分の原価で割った値だ。 何日分のモノを倉庫に積んでいるかを測る数字だと思えばいい。
積み上がったこと自体は事実だ。ただしTSMCが挙げた理由は2ナノの立ち上げだけで、特定の顧客を名指ししたことはない。郭明錤の前提はこの数字と矛盾しない。
TSMC 2025年第2四半期・2026年第2四半期の決算説明会記録、2026-08-12閲覧
その数字の中身
TSMCのいう在庫は、作りかけのウェハーだけではない。 完成品も原材料も消耗品も予備部品も、同じ箱に入っている。 先端プロセスが立ち上がる時期に在庫日数が伸びるのも、今年に限った話ではない。 そして今年2ナノの列に並んでいるのはアップルだけではない。 AMDもメディアテックも同じプロセスを使う。

メモリ不足そのものは事実だ
郭明錤も不足自体は否定していない。 むしろそれゆえにアップルが今年のハードウェア出荷計画を絞ったと述べている。
アップル、メモリ不足で2026年のハードウェア出荷を縮小 (MacRumors, 2026-08-10)メモリ各社が単価の高いAIデータセンター向けを先に押さえ、消費者機器向けが後ろに回された結果だ。 アップルは6月にMacとiPadを値上げしており、9月のiPhoneでも同じことが起きるとみられている。
10月の決算で分かれる
二つの話は、別のことを言っている。 報道は作ったのに送れないモノが積み上がったと言い、郭明錤はそもそもそこまで作っていないと言う。 この差は小さくない。 前者ならメモリが緩んだ瞬間に滞留分が一気に出てくるし、後者なら出てくる量自体がすでに削られている。 同じ9月のiPhoneをめぐっても、待てば買えるという話と、そもそも作る台数が減ったという話に分かれる。 分岐点は10月の第3四半期決算だ。 在庫日数が今期より下がれば2ナノ立ち上げに伴う一時的な膨らみだったことになり、さらに伸びれば何かが実際に積み上がっている。
- TSMCの在庫日数が第2四半期に7日増えて87日になった。
- そこから、アップルの2ナノ・チップがパッケージングを待って積み上がっているという話が出た。
- しかしアップルはプロセッサを3か月前に、そのとき使えるメモリの量に合わせて発注する。メモリが詰まったとき減るのは在庫ではなく発注のほうだ。
採点予定採点待ち
出典
- 原文 郭明錤 (Ming-Chi Kuo) · 2026-08-10
- 元の報道 Wccftech · 2026-08-06
- 反論の報道 AppleInsider · 2026-08-10
- 在庫日数の出所 TSMC 2026年第2四半期決算説明会の記録 · 2026-07-16
- アップルの出荷縮小 MacRumors · 2026-08-10
- 2ナノの顧客 Tom's Hardware · 2025-09-22
2026-08-12閲覧。在庫日数はTSMCの四半期決算説明会での発言に基づき、2025年第2四半期の76日も同じ形式の発言による。